第1回 お金はウソをつかない

【新・生壹岐ですが】

2014年から2020年まで、セリオ株式会社の社長として、社員と協力企業の皆様に対して、社長訓話的に毎月月初の朝礼で一時間ほどお話していまいた。その内容をそのまま原稿に起こして『生壹岐ですが』というタイトルで会社のHPに掲載してきましたが、2020年7月の寄稿をもって最後とさせていただきました。

その後、それをお読みいただいていた方から、続編をというご要望もありましたので、こちらの個人HPに、直近のセミナー等でお話しした内容の中から抜粋して内容を掲載していきたいと思います。


【新・生壹岐ですが】第1回 お金はウソをつかない

1.お金は価値中立的なもの

今年の初めから、岡山の経営者の方向けに『黒帯経営塾』という経営セミナーを始めています。6月23日に6回目を開催したのですが、そこにオブザーバーで参加してくださった方から、一般的な経営セミナーとはまったく違うと感じたという感想をいただきました。

 何が違うのか考えてみたのですが、やはり一般的には、経営セミナーに期待するものは、結局のところ、お金をどうやったらほかの会社よりたくさん、しかも手っ取り早く、できるだけ楽に稼げるかを教えてくれるものなのではないかと思います。ところが、私のセミナーでは、多分そういう要素が全くないのではないかと思うのです。

しかし、もともと私の専門分野は“お金”(財務関係)であり、企業の財務分析をして財務戦略を立案したり、資金繰りや資金の運用調達計画を立てたりすることを、これまでいろいろな会社で行ってきましたので、お金(数字)に関してはかなり『強い』方だと思います。たとえば、財務諸表をざっと見ただけで、そこの会社が、経営的に何が問題かなどを指摘したり、決算書の数字が間違っていたりするとそれをズバッと見抜いたりする力などはあると思います。

そういう風に、数字に照らして経営者をサポートする参謀的な仕事は得意で、長年やってきましたが、自分が“お金儲け”が上手いかというと、そういう才覚はあまりないような気がします。従って、経営セミナーと言っても、上手にお金を儲けるというような話は興味がないし、そもそもできないのです。

しかし、お金に関しては、駆け出しの銀行員時代からずっと一貫して念頭に置いてきた考え方があります。それは、お金というものは実に価値中立的なものということです。

 これは、最初に入った住友銀行の研修の時に教えていただいたことです。講師の方がおっしゃった「お金も数字も絶対にウソをつかない。(ウソをつくのは人間だ)という言葉が、ものすごく腑に落ち、私がその後仕事をしていく上での基本姿勢になりました。

銀行に入るまでは、お金というのは、大切なものであることは言うまでもないが、色々と人生を狂わせてしまったりするちょっと怖いものでもあるという気がしていたのですが、銀行員としての心構えとして「お金そのものは、極めて価値中立的なものであって、お金がどうこうではなく、人としてお金にどう向き合うかが大切なのだ」ということを教えていただいたことは大変ありがたかったと思います。

「あなたたちのような、本当は何もわかっていない若僧であっても、銀行員というだけで、お客様が汗水たらして働いて稼いだ大金を預けてくださることもあれば、下げたくもない頭を下げてお金を借りたいとおっしゃることもあるわけです。そういう他人様の大事なお金に関する仕事をする上で、何よりも大事なことは「信用」です。皆さんも、どんなに取るに足りないようなことであってもごまかしたりしないで、「誠実に」「正直に」対応するよう心掛けてください」と教えていただき、これは本当に大切なことだと思ったのです。

特に、銀行員の基礎の基礎として、数字の改竄(かいざん)だけは絶対にしてはいけないと厳しく教えられました。それは、お金という商品を扱う上での最低限のルールであるということです。数字を書き換えることは、意図的に行うことはもちろんですが、うっかりしてミスをしてしまった時でも、安易に改竄してごまかしたりせずに、きちんと自分の非を認めて、修正することを習慣化しなさいということでした。

こんな単純なことですが、お金に対する姿勢を習慣化できたことは、その後、企業経営をしていく上でずいぶん助かりました。改竄など一切ないピュアな数字計上し、把握しようと心掛けることは、①適切な経営戦略を立てる上で前提になりますし②社内のモラルを高め、風通しをよくしますし、③長く取引を続けていく上で一番大切な「信用」という大きな元手を作ることにもつながるからです。

なぜかと言うと、世の中には、商売というものは、バカ正直にやるものではなく、上手にピンハネをしたり、釣銭をごまかしたり、高く吹っ掛けたり、色々とそういう“つまらない交渉”をすることが賢いことであり、それをまるで金儲けのテクニックのように考えているようなところがあるからです。私も、これまで大きな企業の営業マンが、厳しいノルマを達成するために決算期末だけ在庫をごまかして架空の売上を計上したり、下請け先に圧力をかけて「貸し」を作ったり「借り」を返させたりして、まるで、時代劇の悪代官のようなことをしているところを何度も目撃してきましたし、実際に頼まれたりもしました。また、中小企業の社長さんが、決算対策と称して、税金を払いたくない一心、赤字を出したくない一心で虚偽の数字を計上するところもたくさん見てきました。こういうことが癖になった人というのは、自分の都合のいいように事実を捻じ曲げますし、こちらがミスをしたり、軽率な発言をしたりしてちょっと隙を見せるとすぐに突っ込んできて、相手を窮地に陥れることに抵抗がなくなるというか、快感にさえなってくるように思います。多分スタートは些細なことで、ごまかしともいえないレベルだったと思うのですが、それで得をしたと感じたことが、段々金額が大きくなり、エスカレートしていって、いつの間にか、会社全体がそういうカルチャーになっていってしまうことが怖しいのです。そういう意味で、お金は価値中立的なものだという認識は非常に重要だと思います。そういう意味で、経営者は、お金に正直に対応できるかどうかが試されていると言えるかもしれません。

2.中小企業が大きくなれない最大の理由とは

お金に関することで、ちょっと話は変わりますが、個人的には、この10年余り、セリオ㈱という会社の社長をしていく上で、本当にありがたかったのは、先ほど申し上げたようなお金に関する私の厳しい基準を満たす、信頼できる幹部が、現場の責任者にも経理部門の責任者にも両方いてくれたことです。特に、経理の責任者が、印鑑と通帳を安心して預けることができる『金庫番』としての役割を発揮してくれたおかげで、私は、経営トップとして、社長にしかできない業務に集中することができました。これは、社長以外にはなかなかわからないことではありますが、会社全体にとって非常に大きな貢献でしたし、個人的にも本当に感謝しています。

ところが、社長たるもの銀行印と通帳は絶対に手放してはいけないという経営者はけっこういらっしゃいますし、経営セミナーなどでもそう教えられることもあります。それは、中小企業の番頭さんクラスの人がお金を持ち逃げするというのはわりとよく聞くことだからです。そういう意味で、ハンコを渡してはいけないというのは、間違ってはいないのですが、私は、個人経営で始めた会社がなかなか大きくならない理由の最大のポイントは、そこにあるのではないかと考えています。自分の能力を磨くことに関しては、一生懸命な社長さんが多いのですが、安心してお金を預けられる人を雇ったり、そういう能力のある人を社内で見つけて育てたりすることの大切さを知らない方が多いのではないかと思います。

実は、こういったことができないと、いつまでたっても会社としての「信用の土台」が大きくならないので、会社も大きくならないし、仮に表面的な数字だけが大きくなったとしても、どこかのタイミングでガラッと崩れてしまうことがあるのはないかと思います。

3.「信用」が仕事をする

 そういう意味では、やはり企業経営においては「信用」が仕事をするのだということを忘れてはいけないと思います。細かいことではありますが、経営者が、先ほど申し上げたような、“つまらない交渉ごと”にしか関心がないようだとなかなか「信用」は育たないのではないかと思います。

また、「玩物喪志」という言葉もありますが、経営者が、ゴルフや趣味などのオモチャ(玩具・遊び)に夢中になりすぎて、何が本業かわからなくなってしまうことがあります。ゴルフは、健康のため、人間関係作りのため、ストレス解消のためなどにとてもいいスポーツだと思いますが、プロの選手のように、毎日朝から晩まで練習するようになり、本来の経営の目的や志を忘れてしまうところまでのめりこみ、信用を失ってしまうことが「玩物喪志」です。ゴルフ以外でも、自動車や音楽系統、競輪、競馬、マージャンなどの賭け事、写真撮影や書画骨董などいろいろあり、その方面の才能がある方もいるとは思いますが、志を忘れるほどのめりこみ過ぎないようにすることが大事だと思います。

「日本で一番大切にしたい会社」シリーズで有名な坂本先生はよく「お天道様に恥じない経営をしているか」ということをおっしゃいますが、結局、事業を永く続けていくためには、長期的に利益を上がる仕組みが必要であり、そのための土台になるものが「信用」であり、その「信用」を育み、維持していくための組織風土が大事なのだと思います。

 企業のトップやリーダーに必要なものは、カリスマ性、戦略眼、決断力、人望、説得力、交渉力、先見性など、人並外れた優れた能力なのではないか思いがちですし、そういうものも大事だとは思うのですが、ドラッカーはシンプルに「真摯さ」だと言い切っています。

 中国の古典には、真摯さとは『忠信』であると書いてあります。忠とは、自分に嘘をつかないことで、信とは、他人に嘘をつかないことです。

そういう風に考えると、お金というものが価値中立的なものだからこそ、それに対して真摯な姿勢を貫くことから「信用」が生まれてくるというのは、非常にわかりやすい考え方なのではないかと思います。何かの参考になれば幸いです。  

以 上

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA